お座りができるようになることは、赤ちゃんの成長において重要な節目。お座りができるようになるとそれまでより視界がグッと広まって、世界が広がります。そして、座ることは成長過程の中でその子が発達していることを示す大きな目安である中、多くの親は赤ちゃんに早くお座りできるようになってほしいと願い、赤ちゃんが早くお座りの体勢になれるよう力を注ぎます。例えばバンボのようなお座り補助具を使って、赤ちゃんが座った状態でいられるようにしようとするのもその一つでしょう。でも、長い目で見たとき、赤ちゃんのお座りは大人が教えたり補助したりするのではなく、自然な発達の流れの中で赤ちゃんが自分で身につけていく方が、その子どもの心身の発達において賢明なのです。その理由は以下のとおりです。
まず、お座りは私たちが想像する以上に複雑な体の動きを必要とするスキルです。頭の位置、背骨のカーブ、胴体の筋肉の張り、骨盤と脚の位置などがうまく連動して、お互いのバランスを保つ必要があるのです。また、それがうまくいかずに赤ちゃんが転倒した場合、赤ちゃんが頭を強く打って転ばないように反射的に腕を動かす必要もあります。大げさな話に聞こえるかもしれませんが、その子がもう少し大きくなって立った状態から転んだ時に、自分の怪我を最小限に抑えるために反射的に腕を動かしたりして上手に転べるかどうかというのも、この赤ちゃんの時期から自分の身体で学び覚えたスキルが影響しているのです。
そして、赤ちゃんが自分で座ることを学ぶ過程において、仰向けの状態から寝返りをうってうつ伏せの姿勢になるプロセスも大切な役割を果たしています。それらの動きを通して赤ちゃんの脳内で運動情報が調整され、自分で座るという動作に必要な筋肉を発達させるからです。
うつ伏せの姿勢は背中の筋肉を鍛えます。そしてその鍛えられた背中の筋肉は、頭を持ち上げたときに頭を支えてまっすぐに保つために役立ちます。また、肘をつくことで肩甲帯(上腕、肩甲骨、鎖骨、胸骨、肋骨周辺)が鍛えられます。この肩甲帯は、のちに転倒したときに体を受け止めたり、ハイハイの姿勢になる際に腕を使って体を押し上げたりするのに必要になります。そのため、赤ちゃんがうつ伏せの姿勢で様々な動きに励み身につける姿勢は、後にお座りやハイハイを自分の力で習得していく過程で赤ちゃんが経験する困難さに影響するのです。
また、寝返りを打ちながら自在に仰向けやうつ伏せの姿勢になることは、腹筋と背筋、そして背中の横の筋肉を鍛えて背骨を安定させます。寝返りを打てるようになると赤ちゃんは簡単に横向きの姿勢になることができ、そこから体を起こしてお座りの姿勢ができるようになるまではあとほんの一歩です。
自分で座ることを習得した赤ちゃんは、背骨がC字カーブ(猫背)ではなくS字のカーブを描いて、背筋が伸びています。そしてその座った姿勢から自在に体勢を変えて、自発的に取りたいおもちゃを取りに行き、またお座りの姿勢に戻ってそのおもちゃで遊び始めることができます。一方で“座らされている”赤ちゃんは前後左右に転倒することはあっても、自在に体勢を変えることができません。そのため視界に手にとってみたいおもちゃが見えても、自分で取りに行くことができません。おもちゃを手にするにも誰かに頼らざるおえない赤ちゃんは、次第に他者に何かをしてもらうことを覚えます。
赤ちゃんが自ずから‘座る’ことを身につける過程は、体の発達のみではなく、心の発達にも大きな影響を及ぼしているのです。